鶏むね肉のパサパサを防ぐ3つの方法と6つの具体的手法
この前、鶏の唐揚げを食べていてこんなことがありました。
「この唐揚げ、パサパサしてるね」
「むね肉だからしょうがないよ」
これを読んでる方でもこんな風に、鶏むね肉のパサパサ感をなくすなんて到底無理なことだと思ってはいませんか?
ちなみに自分はそう思っていました。
なので、鶏料理を作るときはもう率先してもも肉を使っていたわけですが、その分ヘルシーさや価格が安いというメリットをないがしろにしていたんですよね。
そこで調理の際パサパサしがちな鶏むね肉を、しっとりおいしく仕上げる方法をご紹介したいと思います。
鶏むね肉をパサパサさせないためのポイント
ではなぜ、もも肉はパサパサしずらいのにむね肉はパサパサしてしまうのでしょうか?
それは鶏むね肉がもも肉に比べて、
- 脂肪分が少ない
- 熱によって水分が逃げやすい
という特徴を持っているからです。
まず、脂肪分が少ないということはその分、肉の柔らかい組織が減るということです。
例えば牛肉なんかだと、スーパーで安売りにされている赤身の肉よりも、脂肪が網目状に入った霜降りの肉のほうが、料理したとき柔らかいですよね。
これは主に筋肉などのタンパク質よりも、脂肪自体が柔らかいために起きる現象です。
タンパク質は加熱によって縮み硬くなりますが、脂肪は加熱しても硬くなりにくいです。なので、脂肪の割合が多いもも肉のほうが柔らかく感じるというわけですな。
また、むね肉ともも肉それぞれどのぐらい脂肪の量に差があるのかというと、皮なしのもので100gあたり、もも肉が3.9gであるのに対しむね肉は1.5gと、脂肪分には約2.6倍も差があります。
そんなに差があるのですから当然むね肉のほうがパサつきやすいわけですよね。
次に、むね肉はもも肉に比べて水分が逃げやすい構造をしているという点です。
生の肉はタンパク質とタンパク質の間に水分を取り込んで安定していますが、加熱によりタンパク質が縮むと、この水分が外に流れ出てしまいます。
そして鶏むね肉の筋繊維というのは、もも肉に比べて薄く縮みやすい傾向にあります。
縮みやすいということは、タンパク質自体がより硬くなるというのもありますが、同時に取り込んでいた水分も外に逃げやすいということです。
炊いて柔らかくなった米をそのまま放置すると、水分が抜けてカピカピに硬くなるのと一緒ですね。つまり抜けた水分量に応じて、硬くパサパサになりやすいということであります。
では、具体的に鶏むね肉のパサつきを防ぐにはどんな方法があるでしょうか。
方法その① 脂肪分を添加する
パサパサする原因が脂肪分が少ないことであるならば、脂肪分を添加してやれば柔らかくなるだろうという単純な発想でございます。
具体的には、乳化した油でマリネするという方法が有効だそうな。普通にサラダ油とかの乳化していない油でマリネしても効果はあるっちゃあるのですが、マヨネーズなどの乳化した状態の油を使うことでより柔らかくなります。
これは実際にキューピー株式会社により実験(1)されているのですが、鶏むね肉をマヨネーズでマリネすることによってパサつきが改善してジューシーさが増すということらしいです。
このときの実験では、
- マヨネーズで10分マリネしたもの
- マヨネーズで30分マリネしたもの
- マヨネーズに含まれる食塩と同量の食塩で漬けたもの
を比べて肉の破断力を測定するというものだったのですが、その結果、
- 食塩だけのものより、マヨネーズでマリネした方が柔らかくなる
- マリネする時間が長いほど柔らかくなる
ということが分かったようです。そしてこのとき、肉汁の量もマヨネーズでマリネしたものの方が約1.6倍も多くなったんだとか。
つまり、マヨネーズに含まれる油分が鶏むね肉に浸透したために、柔らかくなったということらしいですな。
でも、このときに使う油はマヨネーズのように乳化している必要はあるの?と疑問に思うと思います。
そこでさらに、マヨネーズと同じ材料(油、卵、酢)だが乳化していない状態のものでマリネした場合どうなるのかも調べてくれています。その結果、食塩のみで漬けたむね肉と比べて、
- マヨネーズでマリネしたものは約1/2の硬さ、になったのに対し
- 油・卵・酢でマリネしたものは約3/4の硬さ
また、マヨネーズの味が気になるという人も多いと思います。
この実験ではマリネしたマヨネーズを洗い流したらどうなるのかということは実験されていないものの、すでに鶏肉の中にマヨネーズの油分が浸透している状態ですので、洗い流しても問題ないんじゃないかなと思います。
もっといえば、乳化した状態の油でマリネすることが重要なので、マヨネーズじゃなくても牛乳やバター、ドレッシングとかでもおそらく効果はあると思います。
方法その② 水分を逃がさない
次に加熱による水分の損失を防ぐ方法です。
一番確実なのは低温調理でしょう。過去にステーキを焼く方法の中でも書きましたが、肉というのは60℃以上で加熱するとどんどん水分が失われて硬くなっていきます。
鶏肉を焼くときは弱火でじっくり焼いた方がおいしくなると言われるのは、温度を上げ過ぎでパサパサになることを防ぐことが理由なわけです。
しかし、鶏むね肉というのはただでさえ水分が失われやすい構造をしているため、ほんの少しの火加減の誤差ですぐに水分が失われて硬くなってしまいます。なので、コンロで火加減を調節して硬くせずに調理するというのは中々にレベルが高いことだったりします。
なので、低温調理器のように付きっきりで調理しなくても常に一定の温度で調理できる器具があればすごく便利だと思います。
一度大量に鶏むね肉を低温調理しておけば冷凍して保存も可能です。あとは解凍して焼き目付けたり、一瞬だけ揚げて唐揚げにするとかいう使い方もできますしね。
最近は価格も安くなっているので、興味のある方は手に入れてみてもいいかもしれません。
しかし放置しておくだけで出来上がるとは言っても、調理に時間がかかるというのが難点ですね。最低でも1時間ぐらいはかかりますからね。
そこで次に水分を逃がさないためにおすすめの方法が、ブライン液に浸けるという方法です。ブライン液とは何かというと、水に対して3~5%の塩と砂糖を溶かした液のことです。
たしかに低温調理に比べると水分の損失は免れないのですが、それでも効果は絶大です。
肉を加熱したときに失われる水分は約20%前後と言われているのですが、ブライン液のような塩水に漬けることで、失われる水分を約10%に減らすことができるそうです。
というのも、肉を加熱したときの水分の損失量というのは、肉のpHに大きく関わっているのだそうです(2)。
通常、食用に出回っている肉のpHというのは5.0~5.5ぐらいなのですが、肉がこの範囲のpHにあるとき実は一番保水力が低下するのです。つまり、生の肉がほんの少し酸性にでもアルカリ性にでも変化するだけで、調理の熱による水分の損失は大きく減少するのです。
ポイントは塩を振るのではなく、食塩水に漬けるということです。
食塩自体は中性で、食塩水も同じく中性なのでpHに何の影響もないかと思う人もいるかもしれませんが、食塩は水に溶けることでNaイオンとClイオンに分かれ、さらにそれらのイオンが肉の筋繊維と結合してアルカリ性になるのだそうな。
なので、同じ原理で重曹を使えば肉はアルカリ性になり保水力が高まりパサパサになりずらく、逆に酢や酒を使った場合も肉のpHを下げて酸性にしてくれるので保水力を高めることに効果があります。
ちなみにブライン液に砂糖を加えるのは砂糖には保水性という性質があって、これもまた肉の水分が加熱時に出ていくことを防いでくれるためです。
方法その③ 肉質を柔らかく変化させる
また、そもそもなぜ肉が硬くなるのかというと、主に肉がタンパク質で構成されており、そのタンパク質というのは高い温度で加熱されると硬くなるという性質を持っているためです。
つまり、タンパク質そのものを調理前に分解してしまえば硬くパサパサになるすべなどないというわけです。
そんなことできるの?と思う人は多いと思いますが、実は私たちの身の回りの食材には、プロテアーゼと呼ばれるタンパク質分解酵素が含まれるものが多く存在するんですね。
例えば、
- 玉ねぎ
- ハチミツ
- 舞茸
- 生姜
- 納豆
- パイナップル
- キウイ
のような食材にプロテアーゼは含まれております。これらの食材と一緒に鶏むね肉を漬け込むことで、パサパサ感がだいぶん減ります。
ここで注意しなければならないのは、プロテアーゼは熱に弱いということです。
なので、調理するときに一緒に加熱しても意味はないし、缶詰のパイナップルのような工場で一度加熱されているものはプロテアーゼは効果を失っているので肉を柔らかくする効果は期待できないでしょう。
まとめ
鶏むね肉を調理するときにパサパサになるのを防ぐ方法としては大きく分けて、
- 油分を浸透させる
- 水分を逃がさない
- 肉質を柔らかくする
ことが重要です。そこで具体的に効果があることをいくつか挙げると、
- マヨネーズや牛乳など乳化した油分でマリネする
- 60℃以下の低温調理をする
- 3~5%の塩と砂糖の水溶液(ブライン液)に漬ける
- 重曹を使う
- 酢や酒に浸ける
- タンパク質分解酵素が含まれる食材(玉ねぎ、ハチミツ、舞茸、生姜、納豆、パイナップル、キウイなど)に漬け込む
といったものがあります。是非お試しあれ。
どうぞよしなに。
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