塩を振るタイミングによって、焼き魚がおいしくなるぞという話


「一焼き、二なます、三捨てるより煮て食え」という言葉があります。
これはおいしい魚の食べ方の順を表した言葉なのですが、
日本人にとって焼き魚は、最高の魚の調理法だったわけです。

焼き魚の中でも、塩焼きは最もシンプルで人気の食べ方なのですが、
いろいろなレシピを見てみると、

「焼く前に塩をして10~20分置く」
というのが最も一般的な調理法のようです。

どうせ作るんだったらおいしく作りたいけど、塩をして放置する手間を省けるのだったらそうしたい、
というのが本音。

焼く直前に塩を振るのでは本当にダメなのでしょうか?
また、ベストな塩のタイミングがあるとしたらそれはどのタイミングなのでしょうか?

塩のタイミングは、魚の鮮度と種類によって変わる

実は、塩をして放置した方が良い魚と、しない方がおいしく食べられる魚があります。

結論から言うと、塩のタイミングは

  • 新鮮な魚は塩を振ってすぐに焼き始める
  • 鮮度の悪いものは放置する
  • サンマやサバなどの青魚は放置する
のが良いです。

理由を説明いたします。


魚の生臭さの正体

生臭い焼き魚というのは、マズい焼き魚の特徴的なものです。
魚独特のにおいと称されることもないことはないのですが、
これは新鮮な魚にはないものです。

水揚げされた魚は、時間がたつにつれ、
魚が本来持っているうま味成分の一つである、トリメチルアミンオキサイドという物質が
トリメチルアミン(TMA)という物質に分解されます。
これが生臭さの原因になります。

また、サバなどの青魚には加えて、ヒスチジンといううま味成分があり、これが時間がたつとヒスタミンに変わり、生臭さを発生させます。

塩の効果

塩には食材の脱水の効果があります。

このときに食材から出てきた水分には、先ほどの生臭さの原因であるトリメチルアミンやヒスタミンも含まれます。

つまり、鮮度が落ちて生臭くなった魚や、サバなどのもともと生臭くなりやすい魚に塩をすると、生臭さの成分が水分と一緒に食材から出てきて、おいしくなるというわけです。

塩のデメリット

しかしながら、塩をすることにもデメリットがあります。
タンパク質は熱を加えると固くなりますが、このときに塩が一緒にあるとこの効果を促進させます。(1

ゆで卵を作るときに塩を入れると、ひび割れたところから出てきた白身がすぐに固まるのと同じ作用ですな。

つまり、塩をして放置するとそれだけ身に塩が浸透するので、焼いたときに固くパサパサとし、ふっくらと仕上がらないということが起きてしまうのです。

よって、白身や赤身の魚でかつ新鮮なものは生臭さの成分が少ないので、塩をするのは焼く直前でいいというわけです。

塩のタイミングと量のベスト

青魚を除いては新鮮なものであれば塩は焼く直前でいいということはわかりましたが、
それでは青魚や鮮度の悪くなったものはどれぐらい塩をして放置すればよいのでしょう。

静岡県立大学の食品学の研究者である上柳富美子の研究(2)では、

魚に塩をしたあと30分で急激に脱水し、臭み成分を含む分離液が生まれることが分かりました。

一般的なレシピである「10~20分塩をして放置する」
でもまだ少し足りないというわけですね。

また、塩の量を変えることによって、どれだけ分離液が生じ臭みが抜けるのかについても、ざっくりまとめてみると、

魚の重量に対して塩の量を、

  • 2%ではほとんど分離液が出ない
  • 3%ではそこそこ分離液が出る
  • 5%では結構分離液が出る
  • 10%になると5%のときと比べて倍近く分離液が出る
ということが分かりました(下図参照)


ただし、魚の重量の5%や10%の塩をしてそのまま焼いてしまうと、とてもしょっぱくて食べられたものではありません。

一般的に、味付けの意味合いでは2%の塩をするとちょうどよく食べられるので、それ以上の塩をする場合は、塩をして放置した後魚を洗って塩を抜くなどの作業が必要になるでしょう。

塩の量とタイミングについてまとめると、


  • 新鮮な魚で臭みがあまりないものは、味をつける意味合いで、2%量の塩を焼く直前振りかけて焼く
  • 新鮮な青魚であれば、3%量の塩をして30分後、軽く洗って水分を拭き取ってから焼く
  • 鮮度が悪くなったものは、5%量の塩して30分後、1分ほど水で塩を抜き水分を拭き取ってから焼く
ぐらいがちょうどよいでしょう。

どうぞよしなに。

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